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読書論?

斎藤孝の『読書力』(岩波新書)を見た。そんなにたいして手をかけて書いている本ではないが(どうも最近の彼の本はすごいスピードで書きまくっている感じのものだが)、要するに「歯ごたえのある本を読め」ということを、そのためにはどうやってトレーニングしていくかという技法をまじえて書いているというわけだ。本を読む習慣のない大学生向けのようなので、私にはそれほど関係なかったが(指導には役立つ)。私はといえば、この本にも書いてあるように、中学生から高校生にかけて日本文学全集と世界文学全集を徹底して読んでいる。漱石、鴎外はもちろん、永井荷風や三島由紀夫、野間宏みたいなものまで、世界文学でもシェークスピアからバルザック、スタンダール、トルストイにドストエフスキーまで考えてみると全部読んでいて、二十五歳くらいまでは文学研究者になろうと思っていたくらいであったから、読み方はかなり半端ではない。自分でちゃんとした文章の本が書けるようになるには、最低でも千冊くらいは読まねばいけないと思うが、どうだろうか。たしかに今、まったく考えた通りの言葉で書いているのだが、これは『読書力』にも「書くように考えろ」とある通りで、こういう力は何千冊も読み、また数十冊分にも及ぶ文章を書くことによってのみ鍛えられるものだろう。「自分は本を書いているくせに、『本なんか読まなくてもいい』と言うような奴はいちばん許しがたい」と言っているが、ただ、「本を読め」と言っても、世の中には読まない方がましのようなつまらない本も山のようにあるので、それはある程度スタンダードなものを決めるということも必要だろう。

「わからない部分がある本にチャレンジしていくのはやりがいのあることである」とも言っているが、きのうから読み始めた、ミシェル・アンリの『精神分析の系譜学』はまさにそのような本である。このところすっかりアンリのファンなのだが、『受肉』をフランス語で読み始めて、途中で、ほとんど同じことがくり返し書いてあることに気づいてちょっとお休みし、こちらの『精神分析の系譜学』を始めたわけだが(これは英訳本である。日本語訳もあるが、アンリの日本語訳は信用できないと思う。それに西洋哲学は西洋語で読む方がわかりやすいものである)、これは心理学の本ではなく、哲学の本である。第一章はデカルトのコギトとは何だったかという話で、そこに現象学的な思考の始まりと、その次の瞬間に隠蔽される様を描き出そうとしている・・らしい(全部わかったわけではないので「らしい」なのだが)。これはつまり、〈私〉とはその根源においては〈世界〉には属していない、という直観のことを問題にしているのである。それがコギトである。「我思う」というのはもちろん言葉や論理であれこれ考えるということではない。

これは何の分野でも、スポーツでも将棋や囲碁なんかでもそうだと思うが、「中級」に進んだ人にのみ理解できる面白さというものがあるわけである。このアンリの本などは、まったく哲学書を読んだことがない人が手にとっても、まず一ページも、いや三行も理解できないだろうと思う。しかし、現象学やハイデガーのことなどを多少勉強すればその面白さがわかってくるのだ。

どこが面白いのかって、それを端的に言えば、これは、魂(つまり絶対的内面性とでもいうべきもの)があるということ、それが世界が成立している根拠であるということを、この上なくラジカルに明示しようとしているから、ということである。本物の哲学者の凄さというのを感じますなあ。こういう、最も徹底してラジカルな思考という基盤があってはじめて、非日常的な経験というものの意味が明らかになると思うが・・つまり、そもそも「リアリティとは何か、そのリアリティと〈私〉との関係は何なのか」という根本問題が解明されないと、ノンコンセンサス・リアリティをどう位置づけるかということはわからないはずなのである。それに斬りこんでいけるのは、今のところ、現象学、唯識、西田哲学くらいしかないのだ。私の見るところ、トランスパーソナル学派はどうもそういう哲学的思考がまだ弱い。「リアリティとは何か」がまだ徹底して考えられていない。

なおデカルトについて面白かったものに斎藤慶典の『デカルト』がある。これを読んでいたおかげで、『精神分析の系譜学』のデカルト論もある程度理解できた気がする。

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