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これは科学ではない

どこをどう読めばそう解釈できるのかわからないが、私のやっていることを「霊性についての科学的解明」だと思いこんでいる人がいるらしい。それは私のつねに否定してきたカテゴリーエラー的な思考である。また私は「トランスパーソナル心理学者」ではない。どうも、霊性の科学=トランスパーソナル心理学、そしてそうした科学の登場で、霊性の存在を懐疑派に対しても有無を言わせず科学的論証! なんてストーリーを思い描いているのかもしれないが、はっきり言ってこれはひどい妄想である。これはまったく事実と違うことなので、こういう考えはいますぐ捨てていただきたい。こういう考えは、ほとんど実際に読んでなくて(あるいは理解していなくて)断片的な情報を、自分の都合のいいように解釈しただけの話ではなかろうか。はなはだしい勉強不足だと思うので、こういう人は何とかしてほしい。

まず言っておきたいのは、私はトランスパーソナルの学会に入っているが、それはあくまで隣接領域ということなので、私がやっていることはけっして心理学ではない(ついでに言うと、トランスパーソナル心理学自体も、旧来の意味での「科学」ではない。そもそも臨床系の心理学全体が、科学ではないのだ)。そもそも心、魂に対する厳密な科学的方法は成立しない。

霊性の問題を考えるために、科学の知識など何の役にも立たない。科学を少しやってきた人は、自分のやってきたことがゼロだと言われると頭に来るかもしれないが、それはしかたがない。それは哲学をやっても家具職人になる勉強には何の役にも立たないのと同じことである。ところが科学の知識がある人は、不思議なことに、それが存在や霊性の問題にも有効だと思いたがるのだ。そういうのを特権意識という。その実、哲学でいう存在の問題とは何であるか、まったくなにもわかっていない。存在論的問題というのが、あれこれの知識を総合するだけの「ふつうの勉強」だと思っているところが間違いなので、根本的にこれは学校的な勉強とは異なる次元にあるものなのだ。ともあれ自分がよく知っていると考えていることがいちばんいけないので、自分はまったく何も知らないというところからスタートしないと、霊性の問題はけっして見えてこない。

科学知が特権的だというなら、その「科学知は特権的である」という主張自体を科学的方法で証明していただきたい。もしこの主張が価値論的主張だとするなら、科学知よりも価値論的判断の方が優位であることになる。科学知が特権的であるという主張は論理矛盾を含んでいるように思える。

私は「科学で霊性を証明する」などという発想自体が基本的に「トンデモ」であると考えている。こういう発想が絶えないのは、科学知への漠然たる信仰が抜け切れていないからで、別の見方をすれば哲学知の根源性というものがほとんどまったく理解されていないからである。哲学は「科学とは別の見方から人間を探求している」のではない。そんな陳腐な考えは、まったく勉強したことがない人にしか出てこないだろう。哲学は科学と並列するものではない。問いの次元が異なるのである。そして、霊性の問題はそうした根源的次元から考えることによってのみ思考しうるのである。であるから、私は霊性の本質についての研究は科学の水準ではありえず、ただ、根源的、存在論的問いに定位してはじめて成り立つものだと考えるのである。

もう一度言えば、私はトランスパーソナル心理学者ではない。そして、私の立場も、またトランスパーソナル心理学も、どちらも普通の意味での「科学」ではない。そもそも、科学的であることに絶対的な価値を置くことを否定するという考えが、私にもトランスパーソナルにも共通している。このことははっきりと認識していただきたい。いいかえれば、科学絶対主義に対して、思想哲学の優位性を回復するという運動でもあると思う。私は、霊性の問題についてはいっさい論破の立場には立たないが、科学至上主義批判とカテゴリーエラーだけは何回もやかましく言い続けるつもりである。霊性の探求そのものは実存的な問いであり、そのすべてを学問にのせる必要はなく、またそうすべきでもない。ただ、霊性の探求を妨げている外的な条件としての科学信仰の風潮だけははっきりと批判しておきたいと思う。

※この文章はこれまでに経験した多数の事例から書いているもので、ある特定の個人を念頭に置いて書かれたものではないことをお断りしておく。

おまけでいえば、脳科学の茂木健一郎さん、あの人は科学者としてはもっとも良心的な人であると思うけど、残念ながら・・存在論的問題ということについては、わかっていない。参考文献には永井均の本もあげてあるけれど、本当には理解していない。だって、本当に理解したら、茂木さんはもはや脳科学者であるということの意義を疑うところへ行ってしまうはずだ。つまり、本当に「脳」なんてものが実在するかどうかという問いが来るのだ。そういうところへ茂木さんが追いつめられていないということは、つまり彼がわかっていない証拠なのだ。残念ではあるけれど。

なお、近日は多忙につき、コメント機能は当分の間オフにさせていただく。

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