« 中間的知性について | Main | 霊界探訪?? と新々プラトン主義 »

美的体験について

最近HMVでだいぶCDを買っている。そこにちょっと出ていたが、リヒテルによるバッハの平均律全曲が2291セット受注とか・・なにせ全曲四枚組で二千円ちょっとだからということもあるが、これは私にとっても重要な意味を持つCDである。実は最初にLPで持っていたが、その当時は六枚に分売されておりそれぞれ二千円以上したと思う(二十年以上前の話)。しかし針を落として第一巻のハ長調のプレリュードが流れはじめた瞬間、そのあまりの美に、魂がほかへ行ってしまうのだからしかたがない。いや、ほかに行ってしまうというのは正確ではないかもしれない。私は確かにそのとき「ある世界」を見たのだと思う。確かにそういう確信があったのだ。そして曲が変わるたびにまた違った世界があるのだった。それは言ってみれば違う惑星の風景を垣間見たようなすごく神秘的な感覚だった。それはワーグナーの「パルジファル」みたいな、「いかにも」という意識的な神秘主義ではなく、ただそこに存在していて、しかもそれがある世界への「窓」となっているというようなものである。私は、この平均律のそれぞれの曲に対応する世界があるのではないか、と想像した。それはいずれもこの地上よりもはるかに美しい世界で、人間は肉体を持ってそこへ行くことはできないが、しかしなぜか魂的にはその世界の感覚をかすかに感じることもできるのではなかろうか、という気分であった。そうすると、そういう地上ではない世界というのはたくさんあって、しかもその多数の世界が完璧に調和しているというのが宇宙なのであろうか。バッハの平均律は、その存在自体が、そのような宇宙ヴィジョンを表現していることは明らかだった。それはその当時、漠然とした感覚だったが、いまになってみれば、その宇宙ヴィジョンが決して間違ったものではなかったことがわかる。私はそこで、ヨーロッパ文化の根源にある宇宙的ヴィジョンに触れていたのである。というか、正確にはギリシアからヨーロッパ近代のヘルメス主義までつづくものだが。

ともあれ私は、宇宙とはそのような諸世界が並立し、それが完璧な美的調和を保っている--というギリシア的宇宙観の信奉者である(近代ではライプニッツなどにそうした直観が存在したわけだが)。それが現代ではいかに馬鹿にされていようともそれが真実であることに疑いを抱いていない。なぜならそのような真実は、多くの美的、霊的直観において直接に体験されうると思うからだ。平均律だけではない、モーツァルトだってそうした宇宙的ヴィジョンを直観することは容易なのである。

それはなんというか、「窓が開く」かのような瞬間が訪れるのだ。そのときははっきりと「そこにある」ことが見えるのである。そこにあるものははるかに地上を超えた至高の美である。そのとき、この地上にある美はすべて天界の美の反映として美しいのである、というプロティノスの言葉が正しいことが痛感される。わかるとかわからないとかよく言うが、べつにむずかしいことはない。たとえばある音楽を聴いて、そこで何かを感じ、そして作曲者はじめそれに関わった人すべてへの感謝とともに、「ああ、あなたはこんなにすばらしい世界を見ていたのですね!」と心の底から言うことができれば、それがわかったということなのだ。私は幸いに最近では週に数回くらいの感じでこういう直観を体験している。この間はグリーグのピアノ協奏曲の最後あたりで「窓」が開いた。そのときは本当に、その瞬間何かと通じたことがわかるのである。なぜそんなことがわかるのかは合理的に説明できないことだが、わかるものはわかるのであるからしかたがない。そこでかいま見るところの世界が、どれほどまばゆい光輝の世界であるか、それは残念ながら言葉で言い表すことができない。とはいっても、それは向こうだけがすばらしくてこちらはダメだということではない。そういうふうに考える人はやっぱり実際に体験していないで想像しているだけであるわけで、その光の世界はこちら側をすべて愛で満たすかのようなエネルギーを放射してくれるものである。そうなってしまえばすべては良いという言い方もできるわけである。ともかくその世界が「見える」ということはこの世がリアルである以上にリアルなことなのである。魂というのは本来すべてその世界を故郷としているのだから、本当はその世界を認識する能力は必ずすべての魂のなかに存在するはずだと思う。自分の生を与えている宇宙への愛を必然的に呼び起こすものが真の美である。

« 中間的知性について | Main | 霊界探訪?? と新々プラトン主義 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

September 2017
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
無料ブログはココログ