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ラディカルな経験主義

講義が始まったが、準備の出来ていない人にあまりコアな話はするつもりない。私がとりあえず確認したいことは、「絶対に確実と言いうるものは、世界が現象しており、それを経験する私が今ここにあるということだけ」ということである。それが近代哲学で得られたただ一つの(といってもいいが)重要な結論である、というのが私の理解である。そのような私と世界現象を可能にしている「地平」が問題となり、それを可能にせしめている、不可視の「X」(エックス)が視野に入り始めた・・というのが、ハイデッガーであり、アンリであり、新田義弘なのだ、というのが、私の哲学理解を圧縮した結論なのである。しかしこれは本当に「不可視」なのであろうか。こうした地平ではなお「こちら側」に立って予感を感じ取るというところまでしか行けない。それを超えるためにはその「X」が自己限定したものがこの私なのだという言い方になるしかないが、これはその「X」を実体化する危険が潜む。当然西田哲学にしてもそうなるはずである。ウィルバーのシステムも、最初に「これは究極から見ればウソだよ」と断った上でこれを思い切り実体であるかのように扱っている、そういう意味で哲学ではなくて形而上学というカテゴリーになる言説であろう。しかし私は、これはどうにも仕方がないことではないかと思う。言語で語ろうとする限りどうしてもそうなるのだ。それよりも、実際に、自分自身がはっきりとその限界に挑もうとする意思を持ち、それを実践することが重要だ。そのようにキモが坐っているということが思想家には求められる。坐禅を実践しながらやっている人が京都学派にはいるが、その姿勢は少なくとも認めることができるだろう。

話があっちへいったが、ともかく「今ここで現象を経験している」ということのみが疑えないことで、それ以外のものは幻想であるのかもしれないということ。であるとすれば、安易にある経験のことを幻想であるとは呼べないことになる。きのうとりあげた池田清彦の『科学とオカルト』がいいかげんな文章だというのは、「今ここでの現象の経験とそれを経験する私以外に確実なものはない」という思想的な立場を前半では肯定していながら、オカルト論になると、「こういうことは幻想に決まっている」などという文が出てくることだ。しかし、私とその経験のみが確実であるというなら、他者の経験を「幻想」と呼びうる根拠はどこにあるのだろうか。それは多数者の共同的リアリティと一致しないというにすぎないだろう。こういうところが、つきつめて考えていないところである。

それと、「人間は死ぬと決まっているということがわかったことが現代の最大の特徴である」という文もまったく妄言というしかない。私が死ぬということはこれまで私に現象した世界には存在しない以上、それは論理的に、確実な知識とは言えないのである。ただ私は、他者において、肉体機能が停止すると通常のコミュニケーションが不可能になるという事態を経験できるに過ぎない。その事実から死について推測しているだけなのだ。要するに、そのラディカルな現象学的立場が何を意味するのかを池田は本当にはわかっていないわけで、それを都合のいいところだけ使って他のところではいつのまにか世間的常識を無批判に持ち込む議論をしているわけだ。

現象学的立場は「ラディカルな経験主義」に帰結するのである。つまり、「何であれ、あなたが経験したものは現実である」ということだ。ただ、その現実が他者とどの程度共有されているのか、ということしかない。

だから、たとえば「超感覚的知覚」について言うなら、もしそれが実際にわかっていないのであれば、それは「わかっていない人によるわかっていない人のための議論」にしかならないのであって、実際に経験していないものを「こんなもんだろう」と勝手に推測しておいて、それがいいとか悪いとか言っているのはまったくの無駄話にしかならないわけである。「わかっている人だけが集まって話し合えばいいんだよ」ということ、これは実はケン・ウィルバーの方法論のカナメである。「ぶっちゃけて」言えばそういうことなので、彼は、「わかっていない人なんて相手にする必要はない」と断言しているのである。これはよく読めば本当だとわかるだろう。彼は、わかっていない人を説得・論破するための議論をしているのではないのだ(そういう誤解をされがちだが・・いや正確には、「わかってない人は口を出すな」ということは説得したいと思っているのであろう、そして具体的議論はわかっている人だけでやろうと考えているのだろう)。私はウィルバー批判者だと見られているかもしれないが、それは宇宙論・発達論に関することで、認識論に関しては彼の功績を高く評価しているのである。

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