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キリスト衝動

もう春だと油断していたらけっこう雪が降る。

さてデジタル放送ブームも一段落して、そろそろ仕事モードに戻ってきた。

私は必ずしも「研究者」として自己規定してはいない。そう名乗るには、専門領域が漠然としすぎているだろう。私はゼネラリストだと思っている。いろいろな分野の知識や体験を総合して一つのヴィジョンとして提示するという役割だ。その意味で、ケン・ウィルバーの立ち方に近いとは言える。ウィルバーの思想そのものにはいくつか批判や留保点があるが、やろうとしてること自体はかなり似ている。いろいろ文句を書いたりすることがあるが、それはライバル意識の表れかもしれない(笑)。ま、基本的に認めているという前提の上での話である。ただ、スピリチュアル哲学のスタンダードとするには、その間違えているところが、実践的にはかなり致命的な問題となってくる。私の主な批判点は、物質領域と微細領域(アストラル次元)との関係を誤って解釈していることと、魂の個体性というイデー、また人間的モナドと他次元のモナドとの複雑な関係性を描けていないということである。

ウィルバーの思想に接して、まったく聞いたこともないものだとびっくりする人もいるかもしれないが、基本的なアイデアそのものは古くからあるものである。もちろん彼もそのことは十分承知である。絶対者は絶対無であり、そこからの自己展開として宇宙が生成し、そこにおいて生成したモナドが自己超越して宇宙(すなわち絶対者の自己顕現)そのものが進化するというヴィジョンは、私も基本的に肯定しているが、それはシェリングやヘーゲルなどの思想に発想としてかなり近い。彼の場合それにフロイト、ユング、マスローなど近代心理学を「接合」し、また東洋のスピリチュアル思想と統合したということである。その前提としてはルネ・ゲノン、シュオン、オルダス・ハックスレーなどの「永遠主義哲学」がある。

ただ私としてはこの心理学との「接合」はやや安易にすぎるというか、西洋近代心理学をそのまま「いいよいいよ」として認めてしまっているところがあるのはどうか、と思う。本当の問題は「西洋の心理学と東洋の霊性との綜合」ではなく、「西洋の霊性と東洋の霊性の綜合」なのである。彼の思想ではむしろ西洋的霊性のイデーが後退し、あまりに東洋よりの立ち方になっている。端的に言えばシュタイナーのいう「キリスト衝動」が描けていないのである。このため、日本には受けがいい。というのは、近代日本人はこれまで、本気で「キリスト衝動」と思想的に対決してこなかったし、霊性的思想はすべて仏教をベースとした「東洋型」だけだったのである。門脇佳吉、八木誠一などのように、キリスト教神学を禅で語ってしまおうという人までいる。キリスト衝動との対決ということは、近代日本人の霊的思想にとって最も重要な問題であり、これを回避しているところにウィルバー受容も成り立っていると思えてならない。

一方、2012年のテーマにも見られるように、現在のいわゆる「精神世界」の中には、西洋的な霊性の普及という面もある。つまり、「人類と地球は、神的存在の援助を受けて、霊的完成へ向けて歩んでいく」というイデーが、多くの人にうったえるようになっている。これは、そうしたイデーを魂において「受け取った」ということを意味している。こうしたイデーは、これまでは宮澤賢治の法華経的ヴィジョンなどはあったが、ごく一部にしか日本では理解されなかった霊性のスタイルである。これは、永遠の次元と歴史の次元が交差するという霊的ヴィジョンである。これは日本の思想的土壌では最も理解されにくいもので、キリスト教神学者でさえこのようなイデーを「信じられない」という魂の状態にあることが多かった。

つまり、ここで初めて真の「東西霊性の融合による新ヴィジョンの出現」という思想的な機運が熟しつつあるということなのである。それは現在、神話的表現において広まっている。これを思想的なことばにもたらすということが、私の関心あるところなのである。しかしこの根本的なキリスト衝動は、魂的な感受性で理解すべきもので、論理で説得することはむずかしい。思想的ことばといっても、それは「理性とも調和しうる神話」という次元において成り立つものだろう。

ここで私がイデーと呼んでいるのは、プラトンのイデアと同じものではなく、「宇宙の深みから人間精神へもたらされる何か」を指している。人間は宇宙の深みへ向けて開かれているはずである。イデーとは人間が考え出したものではなくて、宇宙からの贈り物として受け取るものである。それを人間的世界の中で展開しようとすれば象徴的・神話的表現となるほかない。哲学的なイデーもそうした神話的イデーの概念化にすぎないのである。このようなイデーという発想は、ユングの元型の考え方にも通じる。その意味で元型論を読み直すことは興味深いテーマになるだろう。

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