神秘体験と神秘神学
金子晴勇『ルターとドイツ神秘主義――ヨーロッパ的霊性の「根底」学説による研究――』を読んでいるが、これは非常に素晴らしい著作ですね。
金子さんの本は数点読んでいるが、この本がこんなによいとは・・これは、ルターのことばかりではなく、ドイツ神秘主義はおろか、ヨーロッパ思想全体という視野のもとに、神秘主義や神秘神学の伝統について述べたものであるらしい。そもそもヨーロッパ的な霊性の伝統とはどういうものだったか、ということで非常に勉強になる。
また、「いまごろ読んだのかよ」と言われそうであるが・・(笑) ルターというのはこれまで盲点だったんですね。ルターが優れた神秘主義者だということは当然知っていなければならないことなんだが。しかし、ルターにはそれまでのヨーロッパ霊性の伝統が滔々と流れ込んでいるということだ。
神秘神学というのは、「魂の根底において神性との交わりが生じる」という神秘体験が存在することを前提として、それはいかなる意味であるのかを哲学的に反省するものである。体験の世界は、容易に危ない方向へ行きかねない危険性を持つので、それがちゃんとした道で、間違いなく神へと続いている道なのかを確認するために、神秘神学が存在していたということである。
ロースキィは、東方キリスト教にそうした神秘体験と分離していない神秘神学の伝統があったことを示したけれども、それは西方にもないわけではなかったのだ。そのへんのことを全体として把握しているのは、金子センセが第一人者なんですなあ。

