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「ねじまき鳥クロニクル」の穴のことなど

今度の本でメタフィジックの総まとめをして、それから神話やファンタジーの分野に広げていく、という計画をしているのだが(これは再来年から「文学」の講義を担当するのでその準備ということも兼ねているのだが)、総まとめが終わらないうちに、そちらの興味も平行してしまっている。つまり、どうしてもそちらにも手を出してしまう。現実逃避か?(笑)

『村上春樹、河合隼雄に会いに行く』という本を借りてくる。これは、その題名の通りなのだが・・ 対談ということもあるが、期待の割にはツッコミ不足かな。期待というのは、「物語るということのディープさ」についての洞察ということだが、それについてはほんのちょっとで終わった。

この対談は「ねじ巻き鳥クロニクル」が書かれている頃に行われたらしい。この本のストーリーはかなり忘れたが、「海辺のカフカ」と並んで私のもっとも愛好する作品である。なんといっても「古井戸の穴の底」に降りてそこで過ごす、というイメージは鮮烈であった。それがどうしてノモンハン事件とつながっていたのか、まったく思い出せないが、とにかく「穴の底」が強烈で、それはつまり、「これは私もぜひやってみたい」と思わずにはいられなかったということである。

これを読んだときは私も興奮して、周りの人に「井戸の底に入って何日も過ごすんだよ? やりたいと思わない?」などとさかんに言っていたが、その反応は「やりたければやれば?」という冷たいものだったので大いにがっかりした記憶がある。世の中には、そういうイメージにもほとんど何も感じない人もいるのか、と思ったわけで、そういう私との感性の相異がはっきりした人とはさっさと疎遠にするがよろしかろう、などと考えたりした(笑)

こういう文学的イメージは、人間の心が作ったものではあるが、決して単なる「構築物」なのではない。ある意味でこれは「自然」でもあるのだ。

なぜそこにそういうものがあるのか、それは簡単な説明を拒否しており、そういうものが存在すること自体が不可思議ではあるが、それではそれはなぜかそこに存在し、その存在と私とは、なぜかあるエネルギー的な共振をしているということ。そういう圧倒的な「事実」がそこに成立しているのが、ここで自然と呼ばれるものである。

そこに花があったり、雲が流れていたりするという事実があり、そのことだけからも、私はそこからエネルギーが流入してくるのを感じるのだ。そのように、自然からエネルギーが流れ込んでくる「回路」があるというのが大事なことだと思うのだが、世の中にはそういう回路を発達させていない人が少なからず存在する。「解釈された世界」に頼ろうとしすぎる。

本当の「イメージ」とは、なぜそこにそんなものが存在するのか、それは謎であり、それは花が存在し、雲が存在するのと同様の神秘を含んでいることになる。そういう「自然」としての性質をそなえたものこそ本物というものだ。

というわけで、その「穴」というイメージは強烈であったが、この対談本では、そういう「物語ることにより発生してくるディープさ」についての追求は物足りないものであった。

ただここで知ったことは、村上春樹は、書き始めるときにその結末を決めていないということだ。つまり、どのように終わるかわからないまま書いていくので、作者自身、どのように終わるのか先がわからないということである。

たしかに書き始めると、その書かれたものはそれ自身のエネルギーを持ち始め、あたかも独自の意志を持つかのように動き始めるというのは経験するところで、そのように作者の意図を超える世界へ突き進んでいかないと、傑作というものにはならない。

私も前著で、その終末に近くなったときに、始めるときには見えていなかった「ある精神空間」が出現してきたことを感知した。それが、あとがきで、ある空間に到達することがこの本の趣旨だ、と書いたことの意味である。

メタフィジックもまた、言語表現であり、見えない神秘の領域に関わっていくものである以上、そのような「魂レベルの感覚」において判断されてもよいのではなかろうか。メタフィジックをどこまでも論理的に構成しなければならない、というのは必然なことではなく、ある種の美学的立場にすぎないのではなかろうか。・・というと、いつも「霊性における反知性主義」を批判している私としては矛盾ともとられようが、やはり「東アジア人」たる血脈も争えないものがあるのかもしれない。

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